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心臓外科手術について 2016年11月号

心臓外科手術は、近年飛躍的に進歩しています 記事提供 松山医師

はじめに・・・

心臓外科手術は近年飛躍的に進歩してきており、高齢者や多くの併存疾患を持たれている患者さんでも安全に施行可能となってきています。

多くの心臓外科手術は胸骨正中切開といって胸の真ん中を切って行いますが、最近は、手術手技や手術機器の改良により、左胸や右胸の小さな切開(5~10cm程度)のみで手術を行う低侵襲心臓手術(MICS)も広まってきています。

MICSが可能な疾患は僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁疾患です。弁膜症や大動脈手術の際には人工心肺装置という器械を用いて心臓を一時的に停止させて手術を行います。

心臓を停止できる時間は術前の心機能や併存疾患の有無によって異なるため、患者さんそれぞれでどのような手術を行うかを術前にしっかりと検討することが重要です。代表的な心臓手術を概説します。

① 冠動脈バイパス術

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の患者さんに行う手術です。

冠動脈の病変部の末梢側に内胸動脈や大伏在静脈グラフトを用いてバイパス(迂回路)を作り、冠動脈の血流を改善させる手術です。

2012年に天皇陛下が受けられた手術です。

② 弁置換術、弁形成術

弁膜症(大動脈弁疾患、僧帽弁疾患)に対する手術です。

近年は平均寿命の延長とともに、高齢者の大動脈弁狭窄症の患者さんが増加してきています。

僧帽弁疾患のみまたは大動脈弁疾患のみの場合は前述のMICSが可能です。

  1. 1) 弁置換術
    自分の弁を切り取って人工の弁に置換する手術です。人工弁には機械弁と生体弁とがあり、どちらにも長所、短所があり患者さんの年齢やライフスタイルによってどちらの弁を使用するか決定します。

    機械弁の特徴
    ・耐久性良好(基本的に交換不要)
    ・ワーファリン(抗凝固薬)の内服が一生必要となる
    ・血栓症やワーファリン内服による出血性合併症の危険性がある


    生体弁の特徴
    ・10~20年後に再手術が必要になる可能性がある
    ・ワーファリン内服は術後数カ月のみ
    ・機械弁に比べると血栓症や出血性合併症の危険性は低い

  2. 2) 弁形成術
    僧帽弁閉鎖不全症で広く行われています。自己の弁の変性が少ない場合に施行します。自己の弁の壊れている部位を切除したり、縫合したりして修理することにより逆流を制御します。
    自己弁が温存されているため心臓の機能が保たれることが報告されています。基本的にワーファリンの内服は不要です。
③ 大動脈手術

大動脈瘤や大動脈解離という疾患に行われ緊急手術を必要とする場合も多くあります。
近年はステントグラフト挿入術という血管内治療も目覚ましい発展を遂げており適応がある患者さんに施行されています。

  1. 1) 大動脈瘤
    大動脈が動脈硬化などで拡大する病気です。
    拡大してくると破裂の危険性があるため手術が必要となります。
    破裂した場合緊急手術が必要になりますが救命できない場合も多くあります。
    破裂する前に手術を受けることが重要です。
    大動脈径が5 cmをこえてくると破裂の危険性が高くなるため治療が必要となります。

  2. 2) 大動脈解離
    大動脈の内膜に亀裂が入り大動脈が広範囲にわたり中膜レベルで裂けてしまう病気です。
    突然の胸背部痛などで発症し、多くは緊急手術が必要となります。